「今年は夏の宴会シーズンも忙しくて、去年より売上が伸びた」——個人経営の居酒屋やレストランのオーナーにとって、それ自体は嬉しいことです。ただ、売上が伸びたことで気になるのが「来年、消費税を払うことになるのでは?」という不安ではないでしょうか。
消費税を納める義務があるかどうか(課税事業者になるかどうか)は、実は「今年の決算が出てから慌てて考える」ものではありません。すでに終わっている過去の一定期間の売上高によって、来年・再来年の扱いが決まる仕組みになっています。特に2026年の上半期(1月〜6月)の数字は、2027年分の判定にそのまま直結します。
この記事では、個人経営の飲食店を前提に、消費税の「基準期間」「特定期間」による1,000万円判定の考え方を、国税庁の公表情報をもとに整理します。
消費税の「免税事業者」と「課税事業者」、そもそもの分かれ目
個人事業者の消費税の納税義務は、原則として次の2つの仕組みで判定されます。
- 基準期間による判定:その年の前々年の課税売上高が1,000万円以下であれば、原則としてその年は納税義務が免除されます(免税事業者)。
- 特定期間による判定:基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、特定期間(前年の1月1日から6月30日まで)の課税売上高が1,000万円を超えた場合は、課税事業者になります。
さらに、適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)の登録を受けている場合は、この基準期間・特定期間の金額にかかわらず課税事業者になります。この3つの関係を理解しておくことが、来年以降の消費税の扱いを見通す第一歩です。
基準期間による判定 ― 個人事業者は「前々年」の売上高がカギ
個人事業者の基準期間は、その年の前々年(1月1日〜12月31日)です。つまり、2026年分の消費税を考えるときの基準期間は2024年、2027年分であれば2025年の課税売上高がそのまま基準になります。すでに確定している過去の数字が使われるため、「今年頑張って売上を抑える」といった調整はできません。
年ごとの対応関係を表にすると、次のようになります。
| 申告する年(課税期間) | 基準期間 | 特定期間 |
|---|---|---|
| 2026年分 | 2024年(1/1〜12/31) | 2025年1/1〜6/30 |
| 2027年分 | 2025年(1/1〜12/31) | 2026年1/1〜6/30 |
| 2028年分 | 2026年(1/1〜12/31) | 2027年1/1〜6/30 |
この表からわかる通り、今まさに営業している2026年1年間の売上高は、2028年分の基準期間として使われることになります。年末の棚卸とあわせて、1年間の課税売上高がいくらだったかを正確に把握しておくことが、2年後の消費税区分を決める材料になります。
特定期間による判定 ― 「今年の上半期」の売上がもう決着をつけている
基準期間による判定だけでは1,000万円以下でも、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えていると、翌年から課税事業者になります。個人事業者の特定期間は前年の1月1日から6月30日までなので、2027年分について言えば、2026年1月1日から6月30日までの売上高がすでに答えを出していることになります。
特定期間は「課税売上高」でも「給与等支払額」でも判定できる
国税庁の案内によると、特定期間における1,000万円の判定は、課税売上高に代えて、その期間に支払った給与等支払額の合計額で行うこともできます。売上高では1,000万円を超えていても、アルバイト・パートへの給与等支払額の合計が1,000万円以下であれば、課税事業者にならずに済む場合があるということです。逆に、給与等支払額が1,000万円を超えていても課税売上高が1,000万円以下であれば免税を維持できるケースもあります。どちらか有利な方で判定できる点は、飲食店のように人件費のウエイトが大きい業種では特に意識しておきたいポイントです。
飲食店ならではの「一時的な売上増」に注意
個人経営の飲食店では、次のような事情で上半期の売上が一時的に膨らむことがあります。
- 夏祭り・花火大会・地域イベントに合わせた特需や出店
- テイクアウト・デリバリーの新規展開による売上の急拡大
- 春の歓送迎会シーズンや大型宴会の集中
「たまたま忙しかっただけ」でも、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えていれば判定上はカウントされます。上半期が終わった時点で、一度は課税売上高を集計しておくことをおすすめします。
具体例で確認する(あくまで説明用の単純化したケース)
制度の説明だけだとイメージしにくいため、個人経営の飲食店を想定した単純化した例で確認します。実際の判定は取引の内容によって細かく変わるため、目安としてご覧ください。
| ケース | 基準期間の課税売上高 | 特定期間の課税売上高 | 2027年分の扱い(目安) |
|---|---|---|---|
| A:落ち着いた個人経営の居酒屋 | 2025年:900万円 | 2026年1〜6月:620万円 | いずれも1,000万円以下のため、原則として免税事業者を維持 |
| B:夏の宴会が好調だった店 | 2025年:850万円 | 2026年1〜6月:1,050万円 | 基準期間は1,000万円以下でも、特定期間が超えているため課税事業者に |
| C:インボイス発行事業者として登録済みの店 | 2025年:600万円 | 2026年1〜6月:500万円 | 金額にかかわらず、登録により課税事業者 |
ケースBのように、基準期間だけを見て「うちはまだ免税のはず」と思い込んでいると、特定期間の判定を見落としてしまうことがあります。上半期が終わったタイミングで一度両方の数字を確認しておくことが大切です。
該当したら「届出書」の提出が必要
基準期間の課税売上高が1,000万円を超えたことで課税事業者になる場合は「消費税課税事業者届出書(基準期間用)」を、特定期間の課税売上高(または給与等支払額)が1,000万円を超えたことで課税事業者になる場合は「消費税課税事業者届出書(特定期間用)」を、納税地の所轄税務署に提出することになっています。特定期間用の届出書は「速やかに」提出することとされているため、上半期の集計が終わって該当することがわかった時点で早めに動いておくと安心です。なお、すでにいずれかの届出書を提出していて、その後も引き続き課税事業者である場合は、再度の提出は不要とされています。
インボイス発行事業者は、金額にかかわらず課税事業者
適格請求書発行事業者の登録を受けている場合は、基準期間や特定期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、納税義務は免除されません。仕入先や取引先からインボイスの発行を求められて登録した飲食店の場合、そもそもこの基準期間・特定期間による判定の対象外(すでに課税事業者)になっている点に注意が必要です。
インボイス発行事業者として課税事業者になっている飲食店については、2026年分まで使える「2割特例」や、その後の「3割特例」との関係も出てきます。この経過措置の詳しい内容は、以前まとめたインボイスの2割特例は2026年分で終了の記事もあわせてご確認ください。
開業したばかりの店はどうなる?
個人事業者の基準期間は「前々年」なので、開業した年と翌年(開業2年目)は基準期間そのものが存在しません。この場合、原則としてその年の納税義務は免除されます。ただし、次の点は例外です。
- 特定期間(開業した年の前年1月1日〜6月30日、または該当する期間)の課税売上高または給与等支払額が1,000万円を超えている場合
- 適格請求書発行事業者の登録を受けている場合
また、初期投資(厨房設備や内装工事など)にかかる消費税の還付を受けたいために、あえて「消費税課税事業者選択届出書」を提出して自ら課税事業者になる、という選択肢もあります。この場合は将来にわたる縛りも生じるため、開業前後のタイミングで一度試算しておくと安心です。
飲食店オーナーが今すぐ確認しておきたい3つのこと
- 2026年1〜6月の課税売上高・給与等支払額を集計する:2027年分の特定期間の判定に直結します。すでに期間は終わっているので、今すぐ集計できます。
- 2024年・2025年の年間の課税売上高を確認する:それぞれ2026年分・2027年分の基準期間にあたります。過去の確定申告書や会計データから確認しておきましょう。
- 自分の店がインボイス発行事業者かどうかを確認する:登録済みであれば、基準期間・特定期間の金額にかかわらず課税事業者である点を前提に資金繰りを考える必要があります。
課税事業者になることが見えてきたら
基準期間または特定期間の判定で課税事業者になることが見えてきた場合、消費税の申告方法として「一般課税(実額計算)」「簡易課税制度」などを選ぶことになります。簡易課税制度を選ぶ場合は、原則としてその課税期間が始まる前日までに届出が必要になるなど、期限のある手続きが関係してきます。また、日々の記帳では、食材・酒類の仕入や家賃・水道光熱費などにかかる消費税を区分しておくと、後の試算がスムーズになります。年末の食材・酒類の在庫の数え方は、飲食店の棚卸のやり方の記事もあわせてご覧ください。
消費税の中間申告の対象になるかどうかも、課税事業者になった後に関係してくる話です。あわせて消費税の中間申告、8月31日期限に注意の記事もご参照ください。
まとめ
個人経営の飲食店が来年・再来年に消費税を払うことになるかどうかは、今年や来年の頑張り次第ではなく、すでに終わっている「基準期間(前々年)」と「特定期間(前年1〜6月)」の課税売上高によって、かなりの部分が決まっています。2026年の上半期の数字はすでに確定しているので、2027年分の判定材料として一度集計しておくことをおすすめします。また、制度の適用要件や金額の基準は改正で変わることがあるため、最終的な判断をする際は、必ず国税庁の最新の案内で確認するか、専門家に相談するようにしてください。
この記事の内容でご不明な点や、自店のケースに当てはめた具体的な判断が必要な場合は、飲食店の確定申告ドットコム(道濟会計事務所)にご相談ください。
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