飲食店のアルバイト源泉徴収、甲欄と乙欄の違い 年末調整前に確認したいポイント

「うちは学生のバイトが多いから、扶養の範囲で働きたいって毎年相談される」「掛け持ちしてる子の税金、なんでうちだけ高く引かれるの?と聞かれて答えられなかった」——個人経営の飲食店では、こうした声をよく耳にします。

シフト制で人の出入りが多く、学生・主婦(主夫)・掛け持ちのフリーターなど働き方もさまざまな飲食店だからこそ、給与から天引きする源泉所得税の仕組みを店主自身が理解しておくことは、トラブル防止にもスタッフからの信頼にもつながります。

この記事では、飲食店のアルバイト・パート給与にかかる源泉徴収の基本である「甲欄」「乙欄」の違いと、年末調整に向けて今のうちに確認しておきたいポイントを整理します。

給与から天引きする源泉所得税は何で決まる?

アルバイト・パートに給与を支払うとき、店側はその都度、所得税(復興特別所得税を含む)を天引きして預かり、後日まとめて税務署に納付します。この天引き額は、国税庁が公表している「給与所得の源泉徴収税額表」にあてはめて求めますが、同じ給与額でも、そのスタッフが「甲欄」「乙欄」「丙欄」のどれに該当するかによって金額が変わります。

どの欄を使うかは、そのスタッフから「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出してもらっているかどうかで決まります。

甲欄・乙欄・丙欄の違い

甲欄になる人

「扶養控除等申告書」を提出しているスタッフに支払う給与には甲欄を使います。国税庁もこの申告書は「その年の最初の給与の支払を受ける日の前日まで」に提出してもらうものとしています(参考:国税庁「令和7年分 年末調整のしかた」)。甲欄は扶養親族の数などに応じて税額が調整されるため、同じ給与額なら乙欄より天引き額は少なくなります。御店を主たる勤務先としているアルバイト・パートの多くはここに該当します。

乙欄になる人

扶養控除等申告書を提出していないスタッフへの給与には乙欄を使います。典型的なのは、他店やほかの会社と掛け持ちしていて、そちらを主たる勤務先(甲欄適用先)にしているスタッフです。扶養控除等申告書は同時に2か所以上へ提出できないため、掛け持ち先のうち1か所以外は必然的に乙欄になります。乙欄は扶養控除等を織り込まずに税額が設定されているため、同じ時給・同じ勤務時間でも甲欄より天引きされる所得税は高くなります。「なんでこの子だけ引かれる税金が多いの?」という疑問の多くは、この甲欄・乙欄の違いで説明がつきます。

丙欄になる人(日雇い)

日々雇い入れて、働いた日ごとに給与を支払うような雇用形態(いわゆる日雇い労働)には、日額表の丙欄を使います。単発のヘルプや繁忙期だけのスポット雇用がある場合は、通常のシフト制アルバイトと区別して扱う必要がないか確認しておきましょう。

区分 対象になる人 税額の傾向
甲欄 扶養控除等申告書を提出している人(主たる勤務先) 扶養親族数などを考慮した税額
乙欄 申告書を提出していない人(掛け持ち先の2か所目以降など) 甲欄より高い税額
丙欄 日々雇い入れ、働いた日ごとに給与を支払う人 日額表の丙欄で計算

「103万円の壁」は今どうなっている?

学生アルバイトの保護者や、扶養の範囲で働きたいパートスタッフから「103万円を超えると税金がかかるんですよね?」と聞かれることが増えています。ここは令和7年度の税制改正で見直しが行われた部分なので、最新の内容で説明できるようにしておきたいところです。

国税庁の案内によれば、令和7年度税制改正により給与所得控除が55万円から65万円に、基礎控除が48万円から段階的な上乗せを含む金額に引き上げられました。合計所得金額が一定以下の場合、令和7年分・令和8年分は基礎控除に上乗せ特例があり、給与収入だけの人であれば給与収入160万円までは所得税がかからない計算になります(出典:国税庁「令和7年度税制改正による基礎控除の見直し等について」)。この上乗せ特例は令和7年分・令和8年分の措置とされているため、2026年(令和8年)分についても同様の考え方で問題ありません。ただし所得の状況によって上乗せ額は変わるため、個別の金額は最新の国税庁の案内で確認してください。

あわせて、19歳以上23歳未満の親族(学生アルバイトの子など)を持つ人向けに「特定親族特別控除」が新設されました。対象となる親族の合計所得金額が58万円超123万円以下(給与収入のみなら年収123万円+給与所得控除65万円=188万円以下が目安)であれば、保護者側が段階的な控除を受けられる仕組みです(出典:国税庁「令和7年度税制改正による基礎控除の見直し等について」)。いわゆる「103万円の壁」「150万円の壁」と呼ばれてきたラインが実質的に引き上げられた形なので、学生アルバイトから「今年はいくらまで働いて大丈夫か」と聞かれたときは、最新の国税庁の案内を一緒に確認するよう伝えるのが安全です。

社会保険の「106万円の壁」「130万円の壁」は、ここまで説明した所得税の話とは別の制度で、取り扱いも変わってきています。税金の話と社会保険の話を混同しないよう、社会保険については年金事務所や社会保険労務士に確認することをおすすめします。

預かった源泉所得税、納付はいつ?「納期の特例」を使えるか確認を

アルバイト・パートの給与から天引きした源泉所得税は、原則として給与を支払った月の翌月10日までに税務署へ納付します。ただし、給与の支払人員が常時10人未満の事業者は、事前に届出をすることで「源泉所得税の納期の特例」を受けられます(出典:国税庁「No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」)。

この特例が承認されると、1月から6月に支払った分は7月10日まで、7月から12月に支払った分は翌年1月20日までとまとめて年2回の納付でよくなります。毎月の納付事務が負担になりやすい小規模な個人店では、対象要件に当てはまるか一度確認しておく価値があります。届出書を提出した月の翌月末までに税務署から否認の通知がなければ承認されたとみなされ、適用は提出の翌々月支払分からになる点にも注意しましょう(出典:同上)。

年末調整の対象になる人・ならない人

年末調整は、その年最後の給与を支払うときに、1年間の源泉徴収税額と本来納めるべき税額の過不足を精算する手続きです。飲食店ではシフトの出入りが多いため、誰が対象になるのか迷いやすいポイントです。

ケース 年末調整
年間を通じて勤務し、年末時点で在籍・扶養控除等申告書を提出している(甲欄適用) 対象になる
年の途中で退職し、年末時点で在籍していない 原則対象外(退職時に源泉徴収票を発行)
扶養控除等申告書を提出していない(乙欄適用・掛け持ち先など) 対象外(本人が確定申告で精算)
給与収入が一定額を超える高額所得者など 対象外となる場合がある

対象外になったスタッフには、年末調整の代わりに源泉徴収票を発行し、必要に応じて自分で確定申告するよう伝えておくと親切です。掛け持ちのアルバイトは基本的に確定申告が必要になるケースが多いため、退職時・年末時点での源泉徴収票の発行を忘れないようにしましょう。

飲食店ならではの悩みどころ

複数店舗を掛け持ちする学生バイト

近隣の飲食店を掛け持ちする学生アルバイトは珍しくありません。扶養控除等申告書をどの店に提出しているか(=どこが甲欄適用先か)を必ず確認し、自店が2か所目であれば乙欄で計算します。申告書の提出先を勘違いしたまま甲欄で計算してしまうと、年末調整や確定申告の段階でずれが生じます。

まかないは給与に含める?

アルバイト・パートに提供する「まかない」を、経費として処理してよいか、現物給与として源泉徴収の対象に含めるべきか迷うケースもあります。この線引きについては、当サイトの飲食店の「まかない」は経費か給与か?で詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。

年の途中で入退社が多い

飲食店は入退社の頻度が高い業種です。入社時には扶養控除等申告書を必ず受け取り、退職時には源泉徴収票の発行を忘れないという2つのタイミングを、シフト管理表とあわせてルール化しておくと抜け漏れが減ります。

年末調整に向けて今からやっておきたいこと

  • 在籍しているアルバイト・パート全員について、扶養控除等申告書の提出状況(甲欄・乙欄のどちらか)を確認する
  • 掛け持ちスタッフについて、自店が主たる勤務先(甲欄)か、2か所目以降(乙欄)かを本人に確認する
  • 年の途中で退職したスタッフの源泉徴収票を、発行漏れがないか確認する
  • 学生アルバイトやその保護者から収入の壁について聞かれた際は、最新の国税庁の案内を一緒に確認する
  • 給与計算ソフトや会計ソフトを使っている場合は、源泉徴収税額表が最新年分のものに更新されているか確認する

年末が近づくと、棚卸や少額の設備投資の判断など、他にも確認しておきたい経理業務が重なってきます。飲食店の棚卸のやり方や少額減価償却資産の特例もあわせて確認しておくと、年末の経理がスムーズになります。経費の判断に迷ったときは、飲食店が経費にできるもの・できないもの一覧もご活用ください。

まとめ

飲食店のアルバイト・パートの源泉徴収では、扶養控除等申告書の提出有無による甲欄・乙欄の区分と、掛け持ちスタッフの主たる勤務先の把握がまず基本になります。加えて、令和7年度税制改正による基礎控除の上乗せ特例や特定親族特別控除の新設で、いわゆる「103万円の壁」の水準が変わっている点にも注意が必要です。年度で変わる制度でもあるため、金額の最終確認は必ず最新の国税庁の案内で行い、判断に迷うケースは早めに専門家へ相談することをおすすめします。

この記事の内容でご不明な点や、自店のケースに当てはめた具体的な判断が必要な場合は、飲食店の確定申告ドットコム(道濟会計事務所)にご相談ください。

▶ サービス内容・料金:飲食店の確定申告ドットコム

▶ 経費の判断に迷ったら:飲食店が経費にできるもの・できないもの一覧

記事の内容は公開時点の情報に基づいています。税制は改正されることがあります。実際の判断は、最新の国税庁の案内をご確認いただくか、税理士にご相談ください。
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