「インボイス登録してから消費税の計算がよくわからないまま、2割特例でなんとか乗り切ってきた」——そんな個人経営の居酒屋・カフェ・ラーメン店のオーナーは少なくないはずです。仕入や経費を細かく集計しなくても、売上の消費税額さえわかれば申告できる2割特例は、小規模な飲食店にとって事務負担の面でも資金繰りの面でも助かる制度でした。
ところがこの2割特例、個人事業者については2026年分(令和8年分)の確定申告が最後の適用年になります。「来年からどうなるのか」「今のうちに何を準備しておけばいいのか」を、国税庁の公表資料をもとに整理します。
2割特例とはどんな制度だったか(おさらい)
2割特例は、インボイス制度をきっかけに免税事業者からインボイス発行事業者(課税事業者)になった小規模事業者の税負担・事務負担を軽くするために設けられた経過措置です。ポイントは次の3つです。
- 対象者:インボイス発行事業者の登録を受けたことで免税事業者から課税事業者になった事業者(基準期間の課税売上高が1,000万円を超えるなど、インボイス制度と関係なくもともと課税事業者になる場合は対象外)
- 計算方法:売上に係る消費税額の2割相当額を納付すればよく、仕入や経費にかかった消費税額を一件ずつ集計する必要がありません
- 手続き:事前の届出は不要で、確定申告書の所定欄に適用を受ける旨を記載するだけで使えます
この2割特例が使える期間は、国税庁の案内によると令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間とされています。個人事業者は1月1日から12月31日を1つの課税期間とする暦年課税なので、この期限をそのまま自分の申告年に当てはめて考える必要があります。
個人経営の飲食店にとって「2026年分」が最後の適用年
個人事業者の課税期間は暦年(1月〜12月)です。2割特例の対象は「令和8年9月30日までの日の属する課税期間」なので、2026年1月1日から12月31日までを課税期間とする2026年分(令和8年分)の消費税申告が、個人事業者にとって2割特例を使える最後の年になります。2027年分(令和9年分)以降は、この2割特例をそのまま延長して使うことはできません。
「うちはまだ2割特例で申告しているから大丈夫」と思っていても、2026年分の申告(2027年3月頃に提出)を過ぎると、次の年からは別の方法で消費税を計算する必要が出てきます。棚卸や仕入の集計方法を見直すタイミングとして、今のうちに次の一手を確認しておきたいところです。
2027年分・2028年分は「3割特例」へ
令和8年度税制改正では、2割特例の終了後の激変緩和措置として、個人事業者を対象とした「3割特例」が新たに設けられました。国税庁の税制改正特集資料によると、概要は次のとおりです。
- 対象期間:個人事業者の令和9年分(2027年分)・令和10年分(2028年分)の消費税申告
- 対象者:法人は対象外で、個人事業者のみが使えます
- 主な適用要件:基準期間(適用を受ける年の2年前)の課税売上高が1,000万円以下であること、特定期間(前年1月〜6月)の課税売上高(または給与等支払額の合計額)が1,000万円以下であること、インボイス発行事業者の登録を受けていること など
- 計算方法:売上に係る消費税額から、その70%を差し引いた残り、つまり売上税額の3割相当額を納付税額とします
- 手続き:2割特例と同じく事前の届出は不要で、申告書の所定欄に記載するだけで適用でき、インボイスの保存や仕入税額の実額計算も不要です
ただし、3割特例は2割特例よりも実質的な負担割合が大きくなります(納税額の目安が「売上税額の2割」から「売上税額の3割」に上がる計算です)。同じ売上規模でも、2027年分からは消費税の納税額が増える可能性がある、という前提で資金繰りを考えておく必要があります。
具体的な数字でイメージをつかむ
制度の名前だけだとピンとこないという方のために、あくまで説明用の単純化した例で計算のイメージを確認しておきます(実際の税額は業態や仕入構成によって大きく変わるため、目安としてご覧ください)。
年間の売上に対する消費税額(預かった消費税)が仮に60万円だったとします。
- 2割特例で計算した場合:60万円×20%=12万円を納付
- 3割特例で計算した場合:60万円×30%=18万円を納付
- 簡易課税(飲食店業・第4種、みなし仕入率60%)の場合:60万円×(100%−60%)=24万円を納付
同じ売上規模でも、適用できる制度によって納税額の目安が変わることがわかります。2026年分までは最も負担が軽い2割特例が使えますが、2027年分からは3割特例に切り替わり、負担が増える可能性がある、というのがこの記事で押さえておきたいポイントです。
軽減税率(テイクアウト8%・店内10%)の区分は特例を使っても必要
2割特例や3割特例を使うと仕入税額の実額計算は不要になりますが、売上を税率ごとに区分して集計する作業は省略できません。飲食店の場合、店内飲食は標準税率10%、テイクアウトや宅配は軽減税率8%が原則となるため、レジやPOSレジで税率ごとの売上を正しく分けて記録しておく必要があります。ここが曖昧なままだと、特例を使う場合でも正しい売上税額を計算できず、納税額を誤ってしまうおそれがあります。あわせて、キャッシュレス決済手数料は消費税の課税仕入れ(仕入税額控除の対象)になりますが、2割特例・3割特例を選ぶ場合はその実額集計自体が不要になる点も、事務負担を考えるうえでの判断材料になります。
簡易課税制度という選択肢も比較しておく
個人経営の飲食店の場合、消費税の申告方法として「一般課税(実額計算)」「簡易課税制度」「2割特例・3割特例」のいずれかを選ぶことになります。簡易課税制度は、業種ごとに定められた「みなし仕入率」を売上の消費税額に掛けて仕入税額控除の金額を計算する制度で、飲食店業は一般に第4種事業(みなし仕入率60%)に区分されます。つまり、簡易課税では売上税額の4割相当を納付する計算になり、2割特例(2割相当)・3割特例(3割相当)よりも納税額が大きくなるのが通常です。
とはいえ、仕入や経費にかかる消費税額が実際には売上税額の7割・8割に達するような業態(酒類や食材の仕入比率が高い店など)では、一般課税で実額計算した方が有利になるケースもあります。どの方法が有利かは店舗ごとの仕入構成によって変わるため、機械的に「特例だからお得」と判断せず、一度試算してみることをおすすめします。
| 制度 | 対象期間の目安 | 納税額のイメージ | 事前の届出 |
|---|---|---|---|
| 2割特例 | 個人事業者は2026年分(令和8年分)まで | 売上税額の2割 | 不要(申告書に付記) |
| 3割特例 | 個人事業者の2027年分・2028年分 | 売上税額の3割 | 不要(申告書に付記) |
| 簡易課税(飲食店業/第4種の場合) | 選択届出をした課税期間から | 売上税額の4割が目安 | 原則、課税期間開始前日までに届出 |
| 一般課税(実額計算) | 制限なし | 実際の仕入・経費の消費税額による | 不要 |
簡易課税制度を選ぶ場合、2割特例・3割特例の適用を受けた翌課税期間から簡易課税に切り替えるときは、通常より遅い期限(その課税期間の申告期限まで)で「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出できる移行措置も用意されています。切り替えを検討する際は提出期限を必ず確認してください。
飲食店オーナーが今からしておきたい準備
- 2026年分は2割特例を忘れずに適用する:個人事業者にとって最後の適用年になるため、申告書への記載漏れがないか確認しましょう。
- 2027年分以降の消費税額をざっくり試算しておく:2割特例と3割特例では納税額の目安が異なるため、資金繰り計画(納税用の積立額)を早めに見直しておくと安心です。
- 仕入・経費の消費税額を集計する体制を整えておく:一般課税や簡易課税への切り替えを検討する場合に備えて、食材・酒類の仕入や店舗の水道光熱費、家賃などの消費税区分を日頃から記帳しておくと、有利判定の試算がスムーズになります。
- 棚卸資産の集計方法も合わせて見直す:年末の棚卸は消費税だけでなく所得の計算にも直結します。飲食店の棚卸のやり方もあわせてご確認ください。
- 迷ったら早めに専門家へ相談する:どの申告方法が有利かは店舗ごとの仕入構成や売上規模によって変わります。自己判断で決めてしまう前に、税理士へ相談することをおすすめします。
以前まとめたインボイス経過措置の変更点や消費税の中間申告に関する記事もあわせてご覧いただくと、2026年〜2028年にかけての消費税まわりの変化を整理しやすくなります。経費にできるもの・できないものの判断に迷ったときは、飲食店が経費にできるもの・できないもの一覧も参考にしてください。
よくある質問
Q. 2026年分の申告で2割特例を使わずに、いきなり簡易課税を選んでもいいですか?
A. 選択は可能ですが、簡易課税制度は原則として課税期間が始まる前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しておく必要があります。年の途中や申告直前に切り替えることはできないため、検討する場合は早めの判断が必要です。
Q. 3割特例は自動的に適用されますか?
A. 自動適用ではありません。2割特例と同様、事前の届出は不要ですが、確定申告書の所定欄に「3割特例の適用を受ける」旨を記載する必要があります。記載を忘れると特例が適用されないおそれがあるため、申告時に確認しましょう。
Q. 法人化(法人成り)している場合も3割特例は使えますか?
A. 3割特例は個人事業者のみを対象とした措置で、法人は対象外です。法人の場合は2割特例の終了後、一般課税か簡易課税のいずれかを選ぶことになります。
まとめ
個人経営の飲食店にとって、2割特例が使えるのは2026年分(令和8年分)の申告が最後です。2027年分・2028年分は新設の3割特例(売上税額の3割相当)に移行し、その後は一般課税か簡易課税を選んで申告することになります。負担割合が徐々に増えていく制度設計になっているため、「今の申告方法のまま何となく続ける」のではなく、2026年分の申告を機に、今後の消費税の納め方と資金繰りを一度整理しておくことをおすすめします。制度の詳細や最新の適用要件は、国税庁の案内で必ず確認してください。
この記事の内容でご不明な点や、自店のケースに当てはめた具体的な判断が必要な場合は、飲食店の確定申告ドットコム(道濟会計事務所)にご相談ください。
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