「冷蔵庫の調子が悪いから年内に買い替えたい」「食洗機を新しくしたら、経費はどうなるんだろう」——年末が近づくと、こうした相談が増えます。厨房機器やホールの椅子・テーブルは、壊れてから慌てて買うより、多少の余裕を持って計画したほうが、お店にも家計にも優しいものです。
実は2026年4月から、個人事業主でも使える「少額減価償却資産の特例」の対象範囲が広がりました。取得価額の上限が30万円未満から40万円未満に引き上げられ、これまで対象外だった業務用の冷蔵庫や食洗機、レジまわりの機器なども、条件を満たせば購入した年に全額経費にできる可能性があります。この記事では、飲食店の設備投資を念頭に、制度の中身と使うときの注意点を整理します。
少額減価償却資産の特例とは
減価償却資産(厨房機器や什器、内装の一部など)は、本来は耐用年数に応じて数年〜十数年に分けて経費にしていくものです。ところが青色申告をしている中小企業者等(個人事業主を含みます)については、一定額未満の資産を購入して事業に使い始めた場合、その年に取得価額の全額を経費にできる特例があります。これが「少額減価償却資産の特例」(租税特別措置法第28条の2)です。
年間で経費にできる合計額には上限があり、300万円までとされています※1。個人経営の飲食店であれば、この上限を超えるケースはあまり多くないでしょう。
2026年4月から40万円未満に拡大
令和8年度税制改正の大綱では、この特例の対象となる資産の取得価額について「40万円未満(現行:30万円未満)に引き上げる」こと、そして「所得税についても同様とする」ことが明記されました※2。あわせて、適用期限が3年延長されています。
適用のタイミングは、資産を取得して事業の用に供した時期で判断します。
- 2026年3月31日までに取得・事業供用した資産:取得価額30万円未満が対象
- 2026年4月1日以後に取得・事業供用した資産:取得価額40万円未満が対象
ここで注意したいのは「取得価額」だけでなく「事業の用に供したこと」もセットで必要という点です。年末に注文しても、年明けに納品・設置され、実際に使い始めるのが翌年になってしまうと、その年の経費にはなりません。厨房機器は年末にかけて注文が集中し、納期が延びることも珍しくないため、買い替えを考えているなら早めに見積もりを取っておくと安心です。
飲食店で対象になりやすいもの
個人経営の飲食店で候補になりやすいのは、次のようなものです。
- 業務用冷蔵庫・冷凍庫、製氷機、食洗機
- ガス台・オーブン・スチームコンベクションなどの調理機器
- ホールのテーブル・椅子・カウンター什器
- POSレジ・キャッシュレス決済端末
- 看板、店頭の什器、空調(内装工事の一部として扱われる場合を除く)
1点あたりの取得価額(本体価格に設置費用などの付随費用を含みます)が40万円未満かどうかで判断します。まとめ買いした割り箸や紙ナプキンのような消耗品費とは別の話なので、混同しないよう注意してください。この特例は「本来なら数年かけて償却する資産」を「早く経費にできる」制度です。
取得価額ごとの扱いの違い
飲食店で購入する設備は、金額帯によって経費にする方法が変わります。おおまかな整理は次のとおりです。
| 取得価額 | 主な選択肢 |
|---|---|
| 10万円未満 | 消耗品費として全額その年の経費に(青色・白色問わず) |
| 10万円以上20万円未満 | 一括償却資産として3年間で均等に経費化、または下記の特例で全額即時 |
| 20万円以上40万円未満(2026年4月以後取得) | 少額減価償却資産の特例で全額即時(青色申告かつ要件を満たす場合) |
| 40万円以上、または特例の対象外の場合 | 通常の減価償却で耐用年数に応じて数年〜十数年かけて経費化 |
白色申告の場合は、この特例そのものが使えません。10万円未満の即時経費や、10万円以上20万円未満の一括償却資産(3年均等)は白色申告でも利用できますが、20万円以上40万円未満の資産を一度に経費にしたい場合は、青色申告への切り替えを検討する価値があります。
使うための条件
この特例を使うには、主に次の条件を満たす必要があります。
- 青色申告書を提出していること(白色申告は対象外)
- 常時使用する従業員数が一定数以下であること(令和8年度改正後は400人以下が基準とされており、個人経営の飲食店であればほぼ問題にならない水準です)
- 確定申告の際に、少額減価償却資産の取得価額の合計額などを記載した明細を添付するか、その明細を別途保管していること
従業員数の要件は本来、大企業のグループ会社などを除外するためのものなので、家族経営やアルバイトを数名雇う程度の飲食店であれば、まず気にする必要はありません。それよりも実務上は、レシートや領収書を金額ごとにきちんと分けて保管しておくことのほうが重要です。
具体例で考えてみる
たとえば、2026年5月に35万円(税抜)の食洗機を購入し、その月から店舗で使い始めたとします。
- 特例を使わない場合:器具備品として、耐用年数に応じて数年に分けて少しずつ経費にしていきます。初年度に経費にできる金額は、耐用年数と使用月数に応じたごく一部にとどまります。
- 特例を使う場合:2026年4月以後の取得なので40万円未満の対象に該当し、青色申告などの要件を満たせば、35万円全額をその年の必要経費にできます。
特例を使うと、購入した年の課税所得をその分だけ圧縮できるという意味で、資金繰りや納税額の見通しを立てやすくなります。ただし、実際に税額がいくら軽減されるかは、その年の所得水準や他の経費・控除の状況によって変わります。「必ず節税になる」と一律に言えるものではなく、翌年以降に経費にできる金額が前倒しになる、という性質のものだと理解しておくとよいでしょう。
よくある疑問
中古の厨房機器でも対象になりますか
中古資産であっても、取得価額が基準額未満であれば対象になり得ます。ただし中古資産は耐用年数の算定方法が新品と異なるため、判断に迷う場合は購入前に確認しておくと安心です。
クレジットカードの分割払いで買った場合は?
所有権が最初から自店に移る通常の分割払い(信販会社を通じた立替払いを含む)であれば、購入時点の取得価額で判断するのが一般的です。一方、リース契約は所有権の扱いが商品によって異なるため、契約書の内容を確認する必要があります。
2025年中に30万円未満で買ったものは、今回の改正で扱いが変わりますか
変わりません。基準額は資産を取得・事業供用した時点のものが適用されるため、2026年3月31日以前に取得したものは、これまでどおり30万円未満が基準になります。
年末に向けて気をつけたいこと
設備投資を年内の経費にしたい場合、次の点を確認しておくとスムーズです。
- 取得日と事業供用日:契約日ではなく、実際に納品・設置され使い始めた日で判断されます。年末ぎりぎりの発注は納期に注意してください。
- リース・分割払いの扱い:リース契約や分割払いでも、所有権が自店に移る買い取り型かどうかで経費の計上方法が変わります。契約内容によって判断が分かれるところなので、契約前に確認しておくと安心です。
- 棚卸資産との違い:食材や酒類の在庫は棚卸の対象であり、この特例(減価償却資産)とは別の話です。年末は在庫の数え方もあわせて整理しておくとよいでしょう。
- 年間300万円の上限:複数の設備をまとめて買い替える場合は、年間の合計額が300万円を超えないか事前に確認しておきましょう。
なお、この特例の適用要件や金額基準は税制改正で変わることがあります。実際に適用できるかどうかは、購入前に最新の国税庁の案内で確認するか、顧問の税理士に相談することをおすすめします。
まとめ
少額減価償却資産の特例は、2026年4月以後の取得分から取得価額40万円未満の資産が対象となり、これまで対象外だった業務用冷蔵庫や食洗機なども選択肢に入りやすくなりました。ポイントは次の3つです。
- 2026年4月1日以後の取得・事業供用分は40万円未満が対象(それ以前は30万円未満)
- 青色申告であること、年間合計300万円までという上限があること
- 「注文した日」ではなく「使い始めた日」で年をまたぐかどうかが決まること
厨房機器や什器の買い替えを考えているなら、年末に慌てないよう、今のうちに見積もりと納期を確認しておくことをおすすめします。経費にできる金額の範囲や在庫(棚卸)との関係で迷ったときは、飲食店が経費にできるもの・できないもの一覧もあわせてご確認ください。青色申告の特典をもう一つ押さえておきたい方は、まかないの非課税ラインに関する記事もご覧いただくと、年末に向けた経費の整理がしやすくなります。また、年内に大きな出費を控えている場合は、消費税の中間申告に関する記事もあわせて資金繰りの参考にしてください。
この記事の内容でご不明な点や、自店のケースに当てはめた具体的な判断が必要な場合は、飲食店の確定申告ドットコム(道濟会計事務所)にご相談ください。
▶ サービス内容・料金:飲食店の確定申告ドットコム
▶ 経費の判断に迷ったら:飲食店が経費にできるもの・できないもの一覧
※1 出典:国税庁タックスアンサー No.5408「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5408.htm)
※2 出典:財務省「令和8年度税制改正の大綱」(https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/08taikou_03.htm)。本文中の金額基準・適用時期は上記大綱および国税庁の案内に基づいていますが、最新の詳細は国税庁の公式情報でご確認ください。