確定申告が終わってようやくひと息ついたのに、夏から秋にかけて都道府県から見慣れない納税通知書が届いて驚いた、という飲食店オーナーの方は少なくありません。「個人事業税」という税金です。所得税や消費税、住民税は意識していても、個人事業税は申告書を出さずに済むケースも多いため、存在自体を知らないまま通知書を受け取ってしまうことがあります。
結論から言うと、飲食店業を含む多くの業種は個人事業税の対象で、所得の水準によっては毎年一定額を都道府県に納める必要があります。この記事では、飲食店オーナーが個人事業税について最低限押さえておきたい仕組みと、これから来る納期のことを整理します。なお個人事業税は都道府県税のため、細かい取り扱いは都道府県によって多少異なる場合があります。正式な金額・期日は、お手元の納税通知書または管轄の都道府県税事務所の案内で必ず確認してください。
「消費税ならインボイスの関係で気にしていたけれど、個人事業税は聞いたことがなかった」という声もよく聞きます。無視していいものではなく、放置すると延滞金が発生することもある税金です。まずは全体像から確認していきましょう。
個人事業税とは何か、所得税や住民税と何が違うのか
個人事業主が納める税金には、大きく分けて次の4種類があります。
- 所得税(国税):確定申告で計算し、税務署に納める
- 住民税(都道府県民税・市区町村民税):確定申告の内容をもとに市区町村が計算し、6月以降に通知が届く
- 消費税(国税):課税事業者のみ、原則翌年3月末までに申告・納付
- 個人事業税(都道府県税):法律で定められた業種(法定業種)を営む個人事業主に、都道府県が課税所得に応じて課す
このうち個人事業税だけは「自分で申告書を作成して納付する」という手続きが基本的に発生しません。確定申告書のデータが都道府県に共有され、それをもとに都道府県が税額を計算し、納税通知書を送ってくる仕組みになっているためです。この「自分では何もしていないのに通知が来る」という流れが、個人事業税の存在を忘れられやすくしている理由のひとつです。
飲食店業は「第1種事業」、税率は5%
個人事業税は、すべての個人事業主に課されるわけではありません。地方税法で定められた業種(いわゆる法定業種)を営む場合にだけ課税される仕組みで、法定業種は物品販売業や請負業、不動産貸付業、美容業など全国でおよそ70業種にのぼります。逆に言えば、法定業種に該当しない事業であれば、所得がいくらあっても個人事業税自体がかかりません。
飲食店業・料理店業はこの法定業種に含まれ、第1種事業という区分に分類されます。第1種事業の税率は5%で、居酒屋、カフェ、ラーメン店、バー、小規模なレストランなど、店舗を構えて飲食を提供する業態は基本的にここに含まれると考えてよいでしょう。テイクアウト専門店やキッチンカーであっても、飲食物の調理・提供を行う実態があれば同様に扱われるのが一般的です。個人事業税には第2種事業(畜産業・水産業など)・第3種事業(税理士業やあん摩マッサージ業など、税率3%または5%)という区分もありますが、飲食店経営に直接関わるのは第1種事業の税率5%と考えておけば十分です。
一方で、事業所得がそれほど大きくない事業主については課税されない仕組みも用意されています。それが次に説明する「事業主控除」です。
事業主控除290万円で、多くの小規模店は非課税になる
個人事業税には、事業所得から一律で差し引ける「事業主控除」があり、その額は年290万円とされています(1年に満たない営業期間の場合は月割で計算されます)。つまり、その年の事業所得が290万円以下であれば、課税対象となる所得がゼロ(またはマイナス)になるため、個人事業税は発生しません。
開業してまもない店舗や、家族経営で規模の小さい店舗では、事業所得が290万円以下に収まり個人事業税がかからないケースも珍しくありません。ただし複数店舗を持つなど所得が伸びてきた場合は、この控除を超えた部分に課税されることになります。
年の途中で開業した場合、事業主控除は営業を行った月数で按分されます。例えば7月に開業して年内6か月営業した場合であれば、290万円をそのまま使うのではなく、営業月数に応じて圧縮された金額になるイメージです。具体的な月数の数え方や端数の扱いは都道府県によって案内が異なることがあるため、開業初年度に該当する店舗は、送られてきた納税通知書の計算根拠を確認するか、都道府県税事務所に直接問い合わせておくと安心です。
計算の考え方と、見落としやすい「青色申告特別控除の加算」
個人事業税の課税所得は、おおまかに次の式で計算されます。
(事業所得 + 青色申告特別控除額 − 事業主控除290万円) × 税率5%
ここで注意したいのが、所得税の計算では引くことができる青色申告特別控除が、個人事業税の計算では引けないという点です。所得税の確定申告で青色申告特別控除を適用した場合、その控除額はいったん所得に足し戻してから、事業主控除を引く仕組みになっています。青色申告特別控除の上限額は、令和9年分(2027年分)から現行の65万円が75万円へ引き上げられる方向で見直しが進められています(具体的な適用開始時期・要件は国税庁の最新の案内で確認してください)。控除額が変わっても、個人事業税の計算上は所得に足し戻される点は同じです。この制度の詳しい経緯は、以前の記事「青色申告特別控除が令和9年分から変わる」でも整理しています。
例えば、事業所得500万円・青色申告特別控除65万円の飲食店であれば、課税所得は500万円+65万円−290万円=275万円となり、税額は275万円×5%=137,500円となる計算です。実際の金額は所得の状況によって変わるため、あくまで計算の考え方の一例として捉えてください。
納期はいつか(第1期・第2期)
個人事業税は、多くの都道府県で年2回に分けて納めることとされています。
| 区分 | 一般的な納期 | 備考 |
|---|---|---|
| 第1期 | 8月31日 | 税額が1万円以下の場合はこの時点で全額納付 |
| 第2期 | 11月30日 | 2026年は月曜日にあたる |
この記事を書いている2026年9月時点では、すでに第1期の納期は過ぎていますが、第2期の納期限がこれから到来します。納期限が土曜・日曜・祝日にあたる年は、翌開庁日が期限になる扱いが一般的です。正確な期日は、送付される納税通知書に記載された日付で確認してください。
ちょうど8月31日は消費税の中間申告期限とも重なる時期で、以前の記事「消費税の中間申告、8月31日期限に注意」でも触れていますが、この時期は複数の税金の期限が重なりやすいので、通知書を後回しにしないよう気をつけたいところです。
確定申告書とのつながり、そして納付方法
個人事業税は独立した申告書を提出する税金ではなく、所得税の確定申告書に記載した内容をもとに都道府県が税額を計算する仕組みです。確定申告書には「住民税・事業税に関する事項」という欄があり、事業所得の内訳や、事業専従者に関する情報などを記載する箇所があります。ここに漏れや誤りがあると、個人事業税の計算にもずれが生じる可能性があるため、確定申告の段階から正確に記載しておくことが結果的に個人事業税のトラブルを防ぐことにもつながります。
納付は、都道府県から送付される納税通知書(納付書)を使って金融機関やコンビニで支払うほか、口座振替、都道府県によってはスマートフォン決済アプリでの納付にも対応しています。所得税や消費税のように自分で納付先や金額を計算する必要がない分、通知書が届いたら期限内に払うことだけを覚えておけば基本的には問題ありません。ただし納め忘れると延滞金が発生する点は他の税金と同様です。
よくある疑問
Q. 白色申告でも個人事業税はかかりますか。
青色申告か白色申告かに関わらず、飲食店業という業種で判定されるため、白色申告の店舗も対象になります。
Q. 赤字の年や、初めて開業した年はどうなりますか。
その年の事業所得が赤字、または事業主控除290万円(月割後の金額)以下であれば、課税対象となる所得が生じないため、個人事業税はかかりません。この場合は納税通知書自体が届かないことも多いです。
Q. 法人化した場合はどうなりますか。
個人事業税は個人事業主に対する都道府県税です。法人化(法人成り)した場合は、個人事業税ではなく法人事業税・法人住民税など法人向けの税体系に切り替わります。法人化を検討している店舗は、この税負担の変化も含めて試算しておくとよいでしょう。
個人事業税は経費になる
個人事業税は、事業に関連する租税公課として必要経費に算入できます。所得税や住民税とは扱いが異なる点なので、混同しないようにしましょう。当サイトの飲食店が経費にできるもの・できないもの一覧でも、個人事業税や店舗分の固定資産税は経費(租税公課)として扱っています。納付した年の必要経費として、忘れずに記帳しておきましょう。
まとめ
個人事業税は、確定申告とは別に都道府県から納税通知書が届く税金で、飲食店業は第1種事業として税率5%が適用されます。事業所得が290万円以下であれば課税されない仕組みがある一方、青色申告特別控除は個人事業税の計算では所得に足し戻される点には注意が必要です。納期は多くの場合8月と11月の年2回で、これから第2期の納期限を迎える店舗も多いはずです。通知書が届いたら金額の根拠を確認し、必要経費として正しく記帳することが大切です。実際の税額や取り扱いは都道府県ごとに細部が異なる場合があるため、最終的には納税通知書や管轄の都道府県税事務所の案内で確認することをおすすめします。
この記事の内容でご不明な点や、自店のケースに当てはめた具体的な判断が必要な場合は、飲食店の確定申告ドットコム(道濟会計事務所)にご相談ください。
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