「居抜き物件が見つかったけど、前のオーナーに払う造作譲渡料ってどう処理すればいいの?」「保証金は経費になる?ならない?」――これから飲食店を開業しようとする方から、こうした質問をよくいただきます。
居抜き開業は初期投資を抑えられる分、造作譲渡料・保証金・什器購入費など、性質の異なるお金が一度に動きます。どれも「支払った年に全額経費」というわけにはいかず、資産として計上して何年かに分けて償却するものが少なくありません。
この記事では、個人経営の飲食店がこれから居抜き物件で開業する場合を想定し、造作譲渡・保証金・什器購入にまつわる税務処理の考え方を、国税庁の一次情報をもとに整理します。契約内容によって扱いが変わる部分も多いので、最終判断はご自身の契約書を見ながら税理士にご確認ください。
居抜き物件と造作譲渡の基本
「居抜き」とは、内装・厨房設備・什器などが残ったままの状態で店舗を引き継ぐ契約形態です。新規に内装工事をするスケルトン物件に比べて初期費用を抑えられるため、個人経営の飲食店の開業でよく選ばれます。
このとき前のオーナー(または閉店した事業者)に支払う「造作譲渡料」は、厨房機器・内装・什器といった有形の資産を譲り受ける対価です。物件のオーナー(貸主)に支払う権利金・保証金・敷金とは支払先も性質も異なるため、それぞれ別々に整理して考える必要があります。
| 支払先 | 主な項目 | 税務上の性質 |
|---|---|---|
| 前の借主(譲渡人) | 造作譲渡料 | 厨房機器・内装等の取得費用(資産計上・減価償却) |
| 物件の貸主 | 保証金・敷金 | 返還の有無で資産か繰延資産かが分かれる |
| 物件の貸主 | 権利金・礼金・更新料 | 返還されないものは原則、繰延資産として償却 |
造作譲渡で引き継いだ設備は「中古資産」として減価償却する
造作譲渡料を支払って引き継いだ厨房機器・空調・内装などは、新品ではなく「中古資産」として資産計上し、減価償却していきます。国税庁の耐用年数に関する通達では、中古資産の耐用年数は次の簡便法で見積もることができるとされています。
- 法定耐用年数の全部を経過している資産:法定耐用年数の20%に相当する年数
- 法定耐用年数の一部を経過している資産:(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%
たとえば、法定耐用年数8年の厨房機器を4年使用した状態で引き継いだ場合、単純に計算すると「(8年-4年)+4年×0.2=4.8年」となり、1年未満の端数を切り捨てて4年という耐用年数を見積もることになります。実際の計算では資産の種類ごとの法定耐用年数を国税庁の耐用年数表で確認する必要があり、この見積りは事業の用に供した年度でしか行えない点にも注意が必要です。
造作譲渡の契約書には、内装・設備がまとめて「一式○○円」と記載されているケースが多く、個々の資産ごとの金額や取得時期が分からないと減価償却の計算ができません。契約時点で、譲り受ける設備の内訳(品目・数量・目安の金額)をできるだけ書面で残しておくと、後の会計処理がスムーズになります。
新たに購入する什器は少額減価償却資産の特例も選択肢に
居抜き物件でも、老朽化した什器や小型の厨房機器を新たに買い足すことはよくあります。青色申告をしている個人経営の飲食店であれば、取得価額が一定額未満の減価償却資産について、購入した年に全額を経費にできる特例があります。この上限額は近年の改正で見直されており、詳しい要件や年間限度額は、当サイトの飲食店の厨房設備・什器を年内に買い替えるなら?少額減価償却資産の特例の記事で整理していますので、あわせてご確認ください。造作譲渡で引き継ぐ設備であっても、契約書の内訳が個々の資産ごとに区分されていて、1点あたりの金額が特例の対象額に収まるのであれば、同じように適用できないか検討する余地があります。
契約前に確認・保管しておきたい書類
造作譲渡・保証金まわりのトラブルの多くは、「契約時に何を取り決めたかがあとから分からなくなる」ことから起きます。開業前の段階で、次の書類をひとまとめにして保管しておくと安心です。
- 造作譲渡契約書(譲渡対象の品目・数量・金額の内訳がわかるもの)
- 物件の賃貸借契約書(保証金・敷金の金額、退去時の償却規定、原状回復の負担範囲)
- 造作譲渡料・保証金・仲介手数料それぞれの支払明細・領収書
- 新たに購入した什器・厨房機器の見積書・請求書(取得時期がわかるもの)
- 開業前に支出した調査費・打ち合わせ費用などのレシート(開業費として計上するため)
特に造作譲渡契約書は、内装業者が作る一般的な工事請負契約書とは書式が異なることが多く、税務処理を前提とした内訳になっていないケースも見られます。契約前の段階で税理士に一度目を通してもらうと、開業後の会計処理がぐっと楽になります。
保証金・敷金の税務処理
物件の貸主に支払う保証金・敷金は、退去時に(一部でも)返還されるかどうかで扱いが変わります。
退去時に返還される部分
契約終了時に返還される保証金・敷金は、経費にはなりません。貸主に対する債権(将来返してもらえるお金)として資産計上し、支払った年の必要経費には算入しないのが原則です。
返還されない部分(権利金・礼金・更新料など)
保証金のうち償却分として差し引かれ返還されない部分や、権利金・礼金・更新料など最初から返還されない性質の支出は、繰延資産として扱われます。国税庁のタックスアンサーでは、建物を賃借するための権利金等の償却期間について、原則として5年で償却するケースが多く、契約期間が5年未満で、かつ更新の際に改めて権利金等の支払いが必要な契約であれば、その契約期間を償却期間とする、といった考え方が示されています(建物の新築にあたって多額の権利金を支払う場合など、耐用年数の70%相当を償却期間とする例外もあります)。
ここは要注意:保証金・敷金のうちどこまでが「返還されない部分」にあたるかは、契約書の条項(償却規定・原状回復費用の負担範囲など)によって解釈が分かれやすいところです。金額や償却期間の判断は、契約書一式を税理士に見てもらったうえで決めることを強くおすすめします。
開業費も繰延資産、償却タイミングは自分で選べる
物件契約前後にかかった調査費・打ち合わせの飲食代・開業のための研修費などの「開業費」も、造作譲渡料や保証金と同じく繰延資産として扱います。開業費は60か月(5年)で均等に償却する方法のほか、いつでも未償却残高の範囲内で自由な金額を経費にできる「任意償却」を選ぶこともできます。
開業初年度から利益が出ている店舗なら早めに償却して所得を圧縮し、逆に開業直後で赤字が続く見込みなら、黒字化してから償却するという選び方も可能です。どちらが有利かは、開業後数年間の利益計画によって変わります。
開業資金の調達と造作譲渡・保証金の見積り
居抜き開業では、日本政策金融公庫の創業融資など外部からの資金調達を検討する方も多いはずです。融資の審査では、造作譲渡料・保証金・什器購入費のそれぞれについて、見積書や契約書に基づいた資金計画の提出を求められるのが一般的です。
「造作一式でいくら」というどんぶり勘定の見積りだと、審査でも会計処理でも扱いに困ります。譲渡人・貸主それぞれから、できるだけ品目・数量・金額を分けた書面をもらっておくと、融資審査と税務処理の両方でそのまま使えます。
造作譲渡料にかかる消費税
厨房機器や什器などの造作を有償で譲り受ける取引は、通常、資産の譲渡として消費税の課税対象になります。前のオーナーが個人事業者・法人のどちらであっても、インボイス制度のもとでは適格請求書(インボイス)の交付を受けられるかどうかで、支払った消費税を仕入税額控除できるかが変わってきます。契約前に、譲渡人がインボイス発行事業者かどうかを確認しておくとよいでしょう。保証金・敷金のうち返還される部分は資産の預け入れにあたり、消費税の課税対象にはなりません。
年内開業を考えているなら、スケジュールも意識しておく
造作譲渡・保証金の支払い、什器の購入は、いずれも「いつ資産を取得したか」「いつ事業の用に供したか」で扱いが変わります。少額減価償却資産の特例のように取得時期で金額基準が変わる制度もあるため、年内に開業するか年明けにするかで、初年度に使える特例の内容が変わることもあります。契約交渉の段階から、開業予定日と資産の取得時期を意識しておくと、後から慌てずに済みます。
よくある質問
Q. 造作譲渡料の内訳が「一式」でしかわからない場合は?
A. 個々の資産の取得価額が区分できないと、耐用年数の見積りも減価償却の計算もできません。契約時にさかのぼって、譲渡人や仲介業者に品目ごとの内訳を出してもらえないか相談してみましょう。それでも区分が難しい場合の処理は、税理士に相談することをおすすめします。
Q. 中古資産の耐用年数の簡便法と、少額減価償却資産の特例はどちらを使うべき?
A. 取得価額が少額減価償却資産の特例の対象額に収まる什器であれば、その年に全額経費にできる特例を使うほうがシンプルです。金額が大きく特例の対象外になる設備については、簡便法で耐用年数を見積り、複数年にわたって減価償却していくことになります。
Q. 保証金の一部が「原状回復費用の実費精算」で戻ってこない場合は?
A. 退去時精算が前提の金額なのか、契約時点で返還されないと確定している金額なのかによって処理が変わります。契約書の償却規定・原状回復に関する条項を確認し、判断に迷う部分は税理士に相談してください。
まとめ
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 造作譲渡料 | 中古資産として資産計上し、簡便法などで耐用年数を見積り減価償却 |
| 返還される保証金・敷金 | 経費にはならず、資産(債権)として計上 |
| 返還されない権利金・礼金等 | 繰延資産として原則5年程度で償却(契約により異なる) |
| 新規購入の什器 | 少額減価償却資産の特例の対象になる場合がある |
| 開業費 | 繰延資産として5年均等償却または任意償却を選択 |
居抜き開業は初期費用を抑えられる魅力がある一方で、税務処理は通常の内装工事より複雑になりがちです。契約書の内容や金額の内訳をきちんと残しておくことが、後の確定申告をスムーズにする一番のポイントです。経費として何が計上できるかの全体像は、当サイトの飲食店が経費にできるもの・できないもの一覧もあわせてご覧ください。
この記事の内容でご不明な点や、自店のケースに当てはめた具体的な判断が必要な場合は、飲食店の確定申告ドットコム(道濟会計事務所)にご相談ください。
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