経営セーフティ共済は飲食店の必要経費に 小規模企業共済との違いと2024年改正の注意点

「取引先が急に潰れて、売掛金も未払いのまま回収できなくなった」――個人経営の飲食店では、卸業者や取引先ほど直接の売掛金は多くないかもしれませんが、家賃の連帯保証や、取引先の飲食卸・仕出し先の急な廃業に巻き込まれるリスクはゼロではありません。また、繁忙期と閑散期の差が大きい飲食店では、「税金は減らしたいけれど、いざというときの手元資金も残しておきたい」というジレンマを抱えている方も多いはずです。

そんな悩みに応えられる制度のひとつが「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)」です。個人事業主の飲食店オーナーでも加入でき、掛金は全額を必要経費にできるうえ、解約すれば掛金の多くが手元に戻ってきます。当サイトの別記事では「小規模企業共済」を取り上げましたが、あちらの掛金は所得控除であり必要経費ではありません。今回はその違いを整理しながら、経営セーフティ共済の仕組みと、年末に向けて検討する際の注意点を解説します。

経営セーフティ共済とはどんな制度か

経営セーフティ共済(正式名称:中小企業倒産防止共済制度)は、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する国の共済制度です。取引先事業者が倒産した際に、無担保・無保証人でその時点の掛金総額の10倍(最高8,000万円)までを無利子で借り入れられる、という「取引先倒産への備え」が本来の目的の制度です。

その一方で、個人事業主であれば納めた掛金の全額をその年の事業所得の必要経費に算入できる点が、資金繰り対策と節税対策を兼ねられる制度として知られています。飲食店のように利益の変動が大きい業種では、黒字の年に多めに積み立てて必要経費を増やし、翌年以降の急な支出や赤字年に解約して資金を戻す、という使い方が想定されています。

加入できる条件

加入できるのは、引き続き1年以上事業を行っている中小企業者です。個人経営の飲食店であれば、業種ごとに定められた資本金・従業員数の要件を通常は下回るため、開業から1年以上経過していれば加入資格を満たすケースがほとんどです。開業したばかりで1年未満の場合は、現時点では加入できない点に注意してください。

飲食店経営で起こりうる「取引先倒産」のリスク

飲食店は現金商売のイメージが強いためか、「取引先の倒産」と聞いてもピンとこない方もいるかもしれません。ですが、実際には次のような場面で影響を受ける可能性があります。

  • 付き合いの長い食材卸・酒類卸業者が廃業し、掛け払い分の商品が届かなくなる、または前払いした保証金・預け金が戻らない
  • 仕出し・弁当の委託先や、共同でイベント出店していた同業者が倒産し、売上や立替金の回収ができなくなる
  • テナントの家主(法人)が経営破綻し、預けていた保証金の返還が滞る

こうした事態が起きたとき、経営セーフティ共済に加入していれば、無担保・無保証人で掛金総額の10倍(最高8,000万円)までを無利子で借り入れられます。実際に借り入れる機会がなくても、「もしものときの備えをしながら、掛金は必要経費にできる」という二重のメリットが、多くの個人事業主に選ばれている理由です。

掛金と必要経費算入の仕組み

掛金と必要経費算入の基本ルールは次のとおりです。最新の金額や条件は、必ず中小機構の公式サイトで確認してください。

項目 内容
掛金月額 5,000円〜200,000円の範囲で、5,000円単位で選択・増減できます
掛金総額の上限 累計800万円に達すると、それ以上は積み立てられません
必要経費算入 個人事業主の場合、納付した掛金の全額をその年の事業所得の必要経費にできます
解約手当金 12か月以上の納付で掛金総額の8割以上、40か月以上の納付で全額が戻ります(12か月未満の解約は掛け捨てになります)

「必要経費にできる=納めた分だけ税負担が軽くなる」という点は魅力ですが、解約して戻ってきたお金(解約手当金)は、その年の事業所得の収入金額として課税対象になります。つまり課税を将来に先送りしているだけで、税金そのものがなくなるわけではありません。解約するタイミングは、廃業や大きな設備投資などで利益が落ち込む年に合わせるのが基本的な考え方です。

たとえば、繁忙期の忘年会シーズンで例年より利益が多く出そうな年に、月々の掛金を上限に近い金額まで引き上げて必要経費を積み増し、翌年に厨房設備の入れ替えや店舗の改装で資金が必要になったタイミングで解約する、といった使い方が典型的です。ただし、どの年にどれだけ利益が出るかは決算を締めてみないと分からない部分もあるため、掛金額は資金繰りに無理のない範囲で設定し、期中でも増減額の手続きができることを踏まえて調整するのが現実的です。

解約の種類によって戻り方が変わる

解約には、自分の意思で解約する「任意解約」のほか、掛金の滞納が続いた場合などに機構側から解約される「機構解約」、個人事業を廃止した場合などに解約とみなされる「みなし解約」があります。任意解約に比べて機構解約は解約手当金の返戻率が低く設定されています。廃業や法人成りなどで事業の形態が変わる際は、みなし解約の対象になるかどうかも含めて、早めに取扱窓口(商工会議所や金融機関の窓口など)に確認しておくと安心です。

個人事業主が必ず気をつけたい「明細書の添付」

経営セーフティ共済の掛金を必要経費に算入するには、確定申告書に「特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書」を添付する必要があります。この明細書の添付を忘れると、税務調査などで必要経費として認められないおそれがあるとされていますので、確定申告のたびに忘れずに添付することが重要です。会計ソフトで確定申告書を作成している場合も、この書類が自動で出力されているか一度確認しておくと安心です。

2024年の制度改正:解約後すぐの再加入に要注意

経営セーフティ共済は、令和6年(2024年)10月1日から制度が改正され、短期間での解約・再加入を繰り返して必要経費算入を積み増す使い方に制限がかかりました。具体的には、共済契約を解約した日から2年を経過する日までの間に支払った掛金は、必要経費(法人の場合は損金)に算入できなくなっています。起算点は「再加入した日」ではなく「解約した日」である点がポイントです。

そのため、「今年は資金が必要だから一度解約して、来年また入り直して経費を積み増そう」という使い方はできなくなっています。解約を検討する際は、この2年間の制限も踏まえたうえで判断してください。

小規模企業共済との違いを整理する

飲食店オーナーが個人で加入できる共済としては、以前ご紹介した小規模企業共済もよく比較されます。どちらも国の制度で、掛金を積み立てて将来受け取れる仕組みは似ていますが、税務上の扱いは大きく異なります。

経営セーフティ共済 小規模企業共済
目的 取引先倒産時の資金調達 廃業・引退後の生活資金の積立
掛金の扱い 事業所得の必要経費 所得控除(小規模企業共済等掛金控除)
掛金の上限 月20万円・総額800万円 月7万円
受取時の課税 事業所得の収入 退職所得・一時所得等

必要経費になるか所得控除になるかは、所得税・住民税・国民健康保険料の計算に影響する範囲が異なるため、どちらか一方ではなく、資金繰りの状況や将来のライフプランに応じて両方を組み合わせて検討している経営者も少なくありません。両方に加入する場合は、月々の掛金の合計額が事業の手元資金を圧迫しないよう、まずは無理のない金額からバランスを見ながら始めることをおすすめします。

飲食店経営で経営セーフティ共済が向いているケース

  • 年末の消費税の中間申告・納付など、まとまった納税が続く時期に備えて資金を積み立てておきたい
  • 好調な年に利益が出た分、必要経費を増やして所得を平準化したい
  • 什器の入れ替えや2店舗目の出店など、数年後にまとまった資金が必要になる見込みがある
  • 取引先の卸業者や仕出し業者の急な廃業リスクに備えておきたい

一方で、開業から1年未満の店舗や、日々の運転資金に余裕がなく掛金の負担が重くなりそうな場合は、無理に加入する必要はありません。掛金は増額・減額のどちらも可能なので、まずは月5,000円など無理のない金額から始めるという選択肢もあります。

よくある質問

Q. 赤字の年でも掛金は必要経費にできますか?

掛金の必要経費算入自体は、その年の所得金額の黒字・赤字にかかわらず行えます。ただし赤字の年に無理に掛金を増額しても、その年の税負担軽減効果は限定的です。赤字の年は掛金を最低額の月5,000円まで下げ、黒字の年に増額するといった調整をしている個人事業主も多く見られます。

Q. 開業したばかりでも今から準備できることはありますか?

加入資格は「引き続き1年以上の事業継続」が条件のため、開業直後は加入できません。ただし1年経過した時点ですぐに検討できるよう、日々の帳簿を整えて自店の利益の出方(繁忙期・閑散期の差)を把握しておくと、加入後の掛金額を決める際の判断材料になります。

Q. 途中で掛金を減額すると不利になりますか?

掛金月額は増額・減額のどちらも手続き可能です。ただし減額には一定の要件があり、また積み立てた総額が減るわけではなく、あくまで今後納める月額が変わるだけです。減額の可否や必要書類は、加入している金融機関や委託団体の窓口で事前に確認しておくと手続きがスムーズです。

まとめ

経営セーフティ共済は、取引先倒産への備えという本来の目的に加えて、個人事業主の飲食店オーナーにとっては「掛金全額が必要経費になる」積立制度として活用できます。ただし、解約時に受け取るお金は事業所得として課税されること、2024年10月の改正で解約後2年間は再加入の掛金が必要経費にならないこと、確定申告時に明細書の添付が必要なことなど、細かいルールを押さえておく必要があります。加入や掛金額の判断は、自店の資金繰りの状況や今後の見通しによって最適解が変わりますので、最新の制度内容は中小機構の公式サイトや国税庁の案内で確認したうえで、専門家に相談することをおすすめします。

この記事の内容でご不明な点や、自店の資金繰り・掛金額に当てはめた具体的な判断が必要な場合は、飲食店の確定申告ドットコム(道濟会計事務所)にご相談ください。

▶ サービス内容・料金:飲食店の確定申告ドットコム

▶ 経費の判断に迷ったら:飲食店が経費にできるもの・できないもの一覧

記事の内容は公開時点の情報に基づいています。税制は改正されることがあります。実際の判断は、最新の国税庁の案内をご確認いただくか、税理士にご相談ください。
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